MECE(ミーシー)って何ですか?考慮事項を漏れなく書き出そう!

MECE=「モレなく、ダブりなく」

MECE(ミーシー)とは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略で、直訳すると「互いに重複せず、全体として漏れがない」・・・もっと簡単にいうと「モレなく、ダブりなく」という意味です。

ビジネスではロジカルシンキング(論理的思考)の重要性がよく説かれますが、ロジカルシンキングを実行するために必要な概念がMECEです。

ロジカルシンキングとは・・・

MECEとは・・・

という教科書的な説明は他のコラムに譲るとして、ここではMECEの具体例と、MECEを欠いた場合に起こる困った事例について見ていきましょう。

MECEの例①業務フロー図

業務フロー図

新しいサービスをリリースした場合や、新しい取引相手と協業が始まった場合、社内の業務を効率化する場合など、仕事が増えたり減ったり、手順が入れ替わったりすることはしばしばあります。

  • Aさんは何をするか
  • AさんがタスクaをするのとBさんがタスクbをするのはどちらが先か
  • もしも○○に該当する場合はどうするか、該当しない場合はどうするか
  • ・・・

これらの考慮すべきことを漏らすことなく、全体像を見渡せるように、図形や矢印などを使って、一つ一つのタスクとそのつながりを一枚の図に落とし込んだものが業務フロー図です。

一方、業務の引き継ぎのマニュアルを作る際、タスクを順番に並べただけの単純なリストがよく作られます。

 手順1)○○からCSVをダウンロードする。
 手順2)CSVをExcelで開き、F列に○○を追加し、Excel形式で保存する。
 手順3)Excelファイルを○○課のファイルサーバーにアップする。
 手順4)○○課の▲▲さんにSlackでメンションする。

決まりきった一直線のタスク群を運用し続けるだけならこれでいいのですが、業務の手順や内容を大きく変更する場合には、上記だけでは不十分です。

やるべき手順が多いほど、あるいは「もしAの場合はBするが、Aではない場合はCする」のような分岐が多いほど、上記のような一本道のリストだけでは、業務に漏れが生まれるリスクが上がります。

MECEの例②ロジックツリー

ロジックツリー

ある課題を解決するための方法を考えたり、今起きている問題を漏れなく洗い出して状況把握したり、一見バラバラに見える事象をグループに分類整理する場合などに使われるのが、ロジックツリーです。

たとえば、ある飲食店で売上が落ちているとします。そのまま放置は出来ないので、対策を考える必要があります。

ブレストと称して、ミーティングを設定して原因を洗い出したり、その対策を考えたりします。

  • 周辺のお店に比べてメニューの価格が高い。
  • 駅前に商業施設ができて、人の流れが変わってしまった。
  • 配膳やテーブルの片付けに時間がかかり、利用者の不満が高い。
  • 掃除が行き届かず、店の中からどことなく清潔感が失われている。
  • 新規開店当初は人気があったが、地元客が一巡して飽きられてしまった。
  • ・・・・

このようなリストを元に、2回目のミーティングでは、これまたブレストと称して、それぞれの課題仮説に対して、いきなり解決策を考えがちです。(いわゆる「ジャストアイデア=思いつき」の状態です)

リストに並んでいる課題が、ちょっとした日々の注意だけで片付くならこの程度のリストでもよいでしょう。

しかしこのリストには大小さまざまなレベルの課題が混在しています。

すべての課題と解決策について、優先度すらつけずに同列に扱い、すべてを実行しようとしても、どれも中途半端になったり、実行不可能なのでいつの間にか立ち消えになったりしがちです。

結果、なかなか状況は改善されません。

そもそも議論が拡散したままで、何度ミーティングを開いても解決に向けて事態が進捗しません。

散らかり放題の部屋を片付けるのに、どこから手を付けたらいいか分からないような状態に近いです。

上記の課題リストをロジックツリーで整理すると、たとえば以下のように分類できます。

--------------------------------------------------------------------------------------------
売上が落ちている
 └①メニューの問題
   └周辺のお店に比べてメニューの価格が高い
   └新規開店当初は人気があったが、地元客が一巡して飽きられてしまった
 └②スタッフの問題
   └配膳やテーブルの片付けに時間がかかり、利用者の不満が高い
   └掃除が行き届かず、店の中からどことなく清潔感が失われている
 └③立地の問題
   └駅前に新しい商業施設ができて、人の流れが変わってしまった
--------------------------------------------------------------------------------------------

どうやら店舗の力だけでまず取り組めそうな問題と、もっと根本的・長期的な課題に分かれていそうです。

①②③以外にも「④地域の変化の問題(近隣住民の年齢層が変わってしまった等)」など、別な課題軸があるかもしれませんし、①②③それぞれについて、もっと詳細な課題を挙げられるかもしれません。

初回のブレストのジャストアイデア状態に比べると、課題に優先順位をつけ、次に取るべき対策を考え、優先度を付けやすくなったのではないでしょうか。

課題分析や解決のためによく使われる、市場や顧客セグメントなどを設定した4象限マップやベン図なども、MECEの一種です。

↓よく見かける4象限マップの例です。

4象限

↓これがベン図です。

ベン図

ところで、ベン図は「ベンさんが発明したからベン図と呼ぶ」って、ご存知でしたか?

MECEの例③要件定義・ユースケース図・シーケンス図など

要件定義

プロダクトを開発する際、製造前に整備する要件定義等も、MECEの一つです。

課題を抜け漏れなく把握するロジックツリーが企画職版のMECEなら、要件定義等は開発者版のMECEです。(見た目は若干異なりますが、論理構造はロジックツリーも要件定義も同じです)

開発によって実現したい状態(ユーザーストーリー)や、必要な処理を一枚の図や絵に落とし込むことによって、考慮不足による事故を抑止できます。

MECEで可視化したドキュメントを用意せず、とりあえず手を動かしてプロトタイプをスピーディーに作る手法もありますが、プロダクトが複雑化したり、開発が長期化したりするほど、技術的負債が蓄積されるリスクが高まります。

(そこまで発展&複雑化したプロダクトであれば、そろそろリファクタリングのタイミングかもしれません)

そもそも、適切に設計されたメンテナンスしやすいリレーショナルデータベース自体が、MECE的な思考の結晶といえるでしょう。

MECEの例④会計の複式簿記

複式簿記の仕訳帳

法人会計や青色申告の個人事業主が使う複式簿記は、MECEの代表的なものです。

小学生のお小遣い帳のような単式簿記もMECEですが、一つの取引について貸方・借方に勘定科目と金額を記載する複式簿記は、より精密・複雑なMECEです。

会計処理や税務申告では、総勘定元帳や仕訳帳、現預金の出納帳、その他の補助元帳など多くの帳簿を使います。

それらの帳簿に適切に金額が書き込まれていれば、決算の際には帳簿をまたいだ同じ項目について、すべての金額がピタリ一致するはずです。

会計でMECEが維持されない場合、自社の業績や資産状況を正確に把握できなくなってしまいます。

かつて紙のノートや算盤・電卓で会計を行っていた時代は、MECEを維持すること、つまり異なる役割を持つ複数の帳簿の間で、同じ項目に同じ金額を転記するだけで膨大な労力を要していました。

現代では会計システムや会計ソフトが普及しており、数十年前と比べても会計業務は格段に改善されました。

18世紀の文豪ゲーテは「複式簿記は人類最高の発明」と評しましたが、コンピューターのない時代に、後に何百年も通用し続けるMECEなリレーショナルデータベースを考案した昔の人は、すごいですね…

MECEを完成させること自体が目的ではない

ここまでいくつかMECEの例をご紹介ましたが、MECEを作ること自体が目的なのではなく、MECEには必ず目的があるということは、忘れてはならないポイントです。

  • 業務フロー図は、最終的には運用体制の確立や業務改善のために使われます。
  • ロジックツリーは、最終的には問題を解決するために使われます。
  • 要件定義やその他の図は、最終的には完成度の高いプロダクトをリリースするために使われます。
  • 複式簿記は、最終的には会社の業況を把握して次の打ち手を考えるために使われます。

MECEはそれ自体が非常に美しく、MECEを完成させるだけでも頭を使う楽しいゲームです。しかしビジネスに活用する以上は、その「出口」は常に意識する必要があります。

当社の新プロダクト「IMG-UP(イメージアップ)」におけるMECEの例

新プロダクトIMG-UP

最後に、当社が2024年にリリースした新プロダクト「IMG-UP(イメージアップ)」を例に、MECEによる検討プロセスの一部をご紹介します。

IMG-UPは、樂天ユーザーの90%以上を占めるスマホユーザー向けに、商品の楽天ランキング情報やレビュー点数など、購買の決め手となる情報を自動取得し、商品画像の空き枠にアピール用の画像を自動生成するプロダクトです。

→IMG-UPのサービスページ

これまでの当社のプロダクト開発で培われたUI/UXに関わる知見を反映しており、店舗のみなさまが迷うことなく自力で必要な操作を行えることを、かなり重視しています。

管理画面の配色ひとつとっても、操作に必要な情報を取得し、理解しやすいように考慮されています。

画面の配色だけでもさまざまな検討項目がありますが、ここでは特に「色覚」に関するMECEをご紹介します。

※あわせてこちらのエンジニアのブログも、ぜひご参照ください。

配色決定に先立つ「色覚」に関するMECE

「色の見え方」は実は人それぞれで、赤いものが赤く見え、黄色いものが黄色く見えるような、一般的な色覚(C型)が最も多いですが、少数ながらも、C型とは別な色覚のタイプがいくつかあり、その対象者から見ると、それぞれのタイプや強度によって、色の見え方が異なります。

色覚のタイプ特徴
C型最も多い色覚
P型赤色を感じることが難しい
D型緑色を感じることが難しい
T型青色を感じることが難しい

IMG-UPは、色覚のちがいも考慮して、画面の配色を検討しています。

最も多いC型の人が識別しやすいかどうかは当然考慮するものとして・・・

  • ではP型の人にとってはどうか?
  • ではD型の人にとってはどうか?
  • ではT型の人にとってはどうか?

このように色覚をMECEで挙げた上で、配色を検討しています。

とはいえ、MECEの分類それぞれに対応した解決策を考えればいいかというと、話はそう単純でもありません。

実際には、ある色覚における見えやすさを優先すると、他の色覚ではかえって見づらくなるということも起こります。

したがって現在のIMG-UPは、いかなる色覚でも見やすく、色覚のMECEのどの分類にも通用する配色やUIを採用しています。

適切な配色、配色に依存しないUI、アイコンのデザインや文字表記など、さまざまな解決策があります。どのような形の解決策であれ、課題を整理するためのMECEを使っているにはちがいありません。

ジャストアイデアで配色を考える場合の無限ループ

一方、配色をジャストアイデア(思いつき)で考えると、どうなるでしょうか?

おそらくこうなります。

  • 配色事典をパラパラとめくる
  • 「これが素敵そう?」「これが分かりやすいんじゃないか?」とブレストし、何パターンかピックアップ
  • 「なんだかこれが一番よさそう」で採用し、実装
  • 「ん?なんかちがう」という違和感をおぼえ、変更を検討し、再び配色事典をパラパラめくる
  • (以下無限ループ)

そもそも議論が拡散したままで、いつまで経っても最適な配色が確定せず、品質も向上しません。ジャストアイデアの最もよくないパターンにはまり込みます。

散らかり放題の部屋を片付けるのに、どこから手を付けたらいいか分からないような状態に陥ることでしょう。

MECEを課題解決のツールとして使いこなそう

ここまで、MECEの具体例や、MECEを欠いた場合に起こる困った状況についてご紹介しました。

一見バラバラに見える事象をMECEに落とし込んで考えるスキルは、課題解決や論理的思考力の基本となるものです。

ご紹介した事例も、企画職やエンジニア、デザイナー、会計担当にいたるまで、あらゆる職種にかかわります。(日常生活で、散らかり放題の部屋を目のあたりにし、途方に暮れているときにも役に立つかもしれません!?)

目先のタスクに埋没するだけでなく、目の前にあるものをMECEで分類してみる。

一見遠回りに見えますが、結局は業務の効率化や品質の向上につながり、仕事の手戻りや考慮不足を未然に防げるようになることでしょう。

※ちなみに当社には、研修の一環で、会社負担で(勤務時間中に)グロービスのロジカルシンキング講座を受講できるという制度があります。

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